包丁の基礎知識
2015年7月29日
包丁を深く識るためには、形だけでは伝えられないものがある。製造法、鋼材の種類、構造・・。包丁に使われる鋼材一つとっても、時代の中で、新しい要素が生まれ、普及している。それでも昔ながらの製法、素材が今も使われる理由を考える上で、包丁の基礎を識ることは無駄ではない。自分に合った包丁を選ぶ為にも是非学んでおきたい基本をご紹介します。
◎日本で使われる包丁の種類
包丁の種類は大雑把に分けると和包丁、洋包丁、中華包丁に分けられます。世界各地の調理場を見て回れば、まだまだ見たこともないような包丁に出会えるかもしれませんが、ここでは日本の刃物専門店で手に入るものを中心にご紹介します。
◎和包丁の特徴
和包丁は言うまでもなく、日本が古くから使用し、発展してきたものです。目的があって、初めて世に生まれるのが道具です。日本の包丁の種類が実に多彩なのは、和食の文化と密接に関わっていると考えてよいでしょう。
魚や野菜などの食材をただきるだけでなく、美しく切り飾ることも求められる和食において、和包丁は必要に応じて種類を増やしていったのだと思います。また食材の大きさによっても使い分けるため、和包丁は種類だけで無く、大きさも細く分れています。
代表的なものは出刃包丁、柳包丁、薄刃包丁などで、構造としては片刃の包丁が殆どです。切った断面の美しさを重視する、和食の伝統を支えている包丁です。
◎洋包丁の特徴
洋包丁は明治以降、洋食とともに日本に輸入され、次第に普及しました。代表的なものが牛刀です。野菜菜万能型の包丁で、全鋼製の両刃が一般的です。以前の日本では、肉を切ることがほとんど無かったため、家庭においては葉切り包丁を使うことが多く、現代のようにパックされた魚を買える文化も無い時代ですから、出刃包丁も揃えていました。
次第に肉料理が家庭の食卓にも並ぶようになると、包丁もその需要に応えるように形を変えていきます。それが三徳包丁です。肉、魚、野菜菜すべてを無難に切る、一般家庭で使われる代表的な包丁です。
◎包丁の各部名称
基本的な包丁の形は、切るための「刃」の部分と握るための「柄」の部分からできています。しかし和包丁と洋包丁では柄の付け方が違うので、形状が異なり、名称にも違いがあります。また、地域により名称がことなる場合もありますが、ここでは和包丁の代表的な産地である堺で使われる名称を基に説明しています。
右利きようの包丁は、刃を下向きに右手に持ち右側が表、左側が裏です。左利き用は表裏が逆になります。和包丁の場合、片刃の包丁が多いので右利き、左利き用は左右対称にできているのでわかりやすいのですが、両刃の洋包丁でも同じです。左効き用に刃を研げば表裏は右利き用と逆になります。
柳刃包丁や薄刃包丁などは柄に入る中子の部分で段がついてます。この段を「マチ」といい、マチの付いている包丁はここから切っ先までが刃渡りです。
◎包丁の長さについて
出刃包丁のようにマチがない包丁は「アゴ」から切っ先までが刃渡りとなります。包丁は通常、この刃の長さで売られています。単位はミリ、センチから寸、尺、まで幅広く使われています。
一般家庭用の包丁や洋包丁はミリ、センチが多く、和包丁では寸、尺で表記することが多いようです。当サイトでも同様に洋包丁はミリ、和包丁は寸、尺で表記しています。
尺は厳密には約30.3㎝ですが、刃物を購入する基準としては30㎝と考えてよいと思います。寸はその10分の1です。
寸、尺の表記の仕方もたとえば360mmの柳刃包丁の場合、当サイトでは一尺二寸と表記していますが、専門職の間では「一」と「寸」を省き「尺二」と呼びます。それより短い場合にも、同様に「尺二」、「尺」と呼び、一尺より短いものは「九寸」、「八寸」と呼びます。さらに細かくなって135㎜などの場合は、「四寸五分」と呼びます。45㎜は一寸五分ですが、これも「一」と「分」が省略され、寸五と呼びます。同様に寸一、寸二・・などと呼びます。
ホームセンターで購入する場合は、ほぼ全てがミリ、センチ表記、または寸尺と両方記載表示したものが販売されていますが、専門店で買う場合には知識として持っていても良いと思います。
◎片刃包丁の構造
次に包丁の構造について見ていきましょう。包丁の刃は片刃と呼ばれる、主に和包丁で使われる刃と、両刃と呼ばれる主に牛刀や家庭用の三徳包丁などの刃にわけることができます。片刃の刃は図のように、断面から見ると裏面がほぼ平面でほんの少しだけ凹んでいます。刃は表から裏に向かい斜めに鋭角に付いているので、切ったときに少し左に切れ込みます。
製法と素材から見ると全鋼の「本焼き」と呼ばれる包丁と、地金に鋼を貼り合せた「合わせ」と呼ばれる包丁があります。本焼きはすべてが鋼で作られているため、鋼全体に焼きが入ってしまうとあとの工程での歪み取りができなくなります。そこで焼入れ前に全体に塗る土の厚みを調整し、峰側は厚く、刃線側は薄く塗ることで焼入れの温度を調節し、峰側には焼が入らないようにする、技術的にも高度な製法で作られています。
この包丁の特徴は、合わせのように地金と鋼の境がなく、日本刀のように刃幅の中央付近に並状の模様がでることです。この線が土を厚く塗った部分と薄く塗った部分の境界で、刃線側に焼きが入っています。
一方、地金(軟鉄)に鋼を合わせて作った「合わせ」は、鋼の部分の光沢に比べ地金の部分は、霞んでるように仕上げてあるため、「霞」とも呼ばれています。
地金に鋼を貼り合せる製法は洋包丁でも採られますが、和包丁の場合は片刃なので峰側を残した裏全体に鋼が付きます。多くの和包丁がこの製法で作られています。本焼きは焼入れの時の工夫で、峰側には焼が入らないようにしているとはいえ、全体が鋼でできているためやはり硬く、強い衝撃などを与えると折れることが稀にあります。その点、合わせは鋼の硬さを地金の粘り強さで吸収し、耐衝撃性に優れています。
切刃も軟鉄の面が多く、研ぎやすいのが特徴です。そのため、プロの料理人も使用頻度の高い包丁には合わせを使用することが多いようです。欠点は地金と鋼の硬度の違いから、僅かながら歪みがでることがある点ですが、普段からメンテナンスしていればそれほど気にせずとも修正できるはずです。
長期間保管した場合など、大きく歪んだ包丁は、ためらわずに専門店で直すことをお勧めします。
◎両刃包丁の構造
両刃の包丁はほとんどの洋包丁と和包丁の一部にあります。和包丁では押し寿司や巻き寿司を切るための寿司切包丁が両刃です。また、出刃や柳刃と同じようなタイプの柄を挿げた和牛刀も両刃です。また土佐の打ち刃物は出刃包丁、柳刃包丁なども両刃があります。
洋包丁では牛刀やペティナイフ等ほぼすべてが両刃です。また家庭用の包丁にも両刃が多く、菜切り包丁や三徳包丁も両刃です。特殊な例として形状は片刃で、刃先のみ両刃、という包丁もあります。この包丁のメリットは裏がフラットに近いため食材に沿わせて厚みの誤差が少なくなるように切りやすく、高級な牛肉を切る牛刀などに好まれます。
また、骨がある場合に、沿わせて切やすいように表には角度が付いています。骨に当たると欠けやすいため、片刃のような鋭い切れ味に近づけることもできます。しかし、三層鋼では片刃研いでしまうと場合によっては地金が刃先になってしまい切れなくなってしまうため、全鋼のものだけに限られた包丁です。
また角に表の角度を鈍角にしますと少し硬い食材を切った場合、曲がって切れるなど、片刃の特徴がでてしまうので注意が必要です。両刃包丁にも全鋼のものと合わせのものとがあります。合わせにも地金の中に鋼が入っている「割り込み」と、峰まで鋼が入っている「三層鋼」と呼ばれるものがあります。
本来の意味では洋包丁は全鋼なのですが、日本国内でも多くの刃物産地で作られていますので、日本古来の鍛接技術を用いたものや、利器材と呼ばれる、鋼材メーカーによりあらかじめ鋼と地金とを接合した材料から作られたものまで、さまざまな種類があります。
最近では、鍛接による割り込みの包丁も、利器材の台頭で、かなり少なくなってきました。100円ショップでも包丁が買える時代ですが、自分が何を求めて包丁を購入するのか、包丁選びはそこから考えるべきでしょう。
2015年7月29日
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